大学の国文学会というと何だかいかめしいが、要するに研究会のようなもの。先月は、コロンビア大学のハルオ・シラネさんの講演会。今月は学習院大学の神田龍身さんの講演と3本の研究発表。なかなかメニューはにぎやかだが、今回は中味は面白かっただけに参加者が少なかったのがちょっと残念。神田さんは大学院のころからの友人で、なぜかそのころ修士課程の授業に外国語があり、ドイツ語を受講していた仲間でもある。結局、このドイツ語は何にも役立たぬまま終わったのだが、神田さんと机を並べてドイツ語のテキストを読んでいたのを思い出す。いまや中古文学研究の重鎮となった神田さんだが、講演ではなぜか「八犬伝」が演目に。いまや寝ても覚めても滝沢馬琴なんだそうで、「八犬伝」をめぐる新たな解釈をくりひろげてくれた。そのなかに松田修といういまはなき近世文学研究者の名も飛び出し、なつかしさがこみ上げる。『闇のユートピア』はむろんのこと、あのころ松田さんは『映画芸術』などに映画批評も書いていたことを思い出す。神田さんの話から「八犬伝」と「大菩薩峠」の類縁性にあらためて気づかされたのも収穫。
研究発表では、昨年から生物資源科学部の先生となった山崎淳さんの「蓮体経典講義」をめぐる発表と、高榮蘭さんの左翼出版と資本主義をめぐる発表が聞き応えがあった。山崎さんのは、河内長野の地蔵寺というお寺の蓮体という僧侶が近世に行っていた経典講義の内容を、残されていたメモやその著作から推測する話。まぁ、坊さんがどんな説教をしていたのか、そのネタは何か、ネタの組合せにはどんな「物語」が用意されていたのかを推理。山崎さんの風貌、たしかに名探偵コナンがおじさんになったような印象がある。高さんの話は、1920年代後半に帝国日本の「内地」と植民地朝鮮という「外地」の出版市場がどのように交差するかを、左翼の本を出していた一般出版社と、戦旗社のような左翼そのものの出版社における運動戦略の差異とともにあぶり出したもの。資料の博捜といい、発表の速さといい、日本語ネイティブもついていくのがやっと。しかし、充実ぶりが伝わってきました。
この国文学会、10月には芸能講座で柳家喬太郎さん、金原亭馬治さんの落語会もあります。乞御期待。
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