八木書店から刊行されていた「喜多村録郎日記」全3巻が完結した。この3巻目には、「新派創立五十周年」を迎えた1937(昭和12)年とその前年の日記が収められている。これで1巻の1930年から37年までのほぼ八年間が明らかになった。この激変する時代をひとりの老優がどのように生きていたか。東京のみならず、各地での地方公演のありさま、多くの文学者との交遊、都市生活の一端がここに描き出されている。なかでも洋画が大好きだった喜多村は実に芝居の合間をぬって映画館にかけつけている。この時期の映画の上映状況や観客の反応を見る上でも貴重な資料になることはまちがいない。3巻には、編集した森井マスミさんと紅野の解説、それに近現代演劇の専門家・神山彰さんの解説3本がついている。さらにさらにこの3巻分の索引が人名・事項あわせて何と71ページ!俳優や芝居、映画のタイトルも拾ってある。これは担当の八木書店出版部の編集者滝口さんによるたいへんな労作である。売れる本ではないから定価は高いけれど、ぜひ研究室や図書館にお備えください。